「ペースメーカーを装着したけれど、仕事に復帰できたから障害年金の対象ではない」
「ICDを入れてから何年も経っているため、もう申請できない」
このように考え、障害年金を申請していない方は少なくありません。
しかし、心臓ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)を装着した方は、働いている場合でも、障害厚生年金の対象となる可能性があります。
また、装着した当時に障害年金の要件を満たしていた場合、過去に遡って請求できるケースもあります。
この記事では、ペースメーカー・ICDを装着した方の障害年金について、対象となる条件、等級、初診日、障害認定日、遡及請求、働きながら受給する場合の注意点を解説します。
○ポイント
・ペースメーカー・ICDを装着した場合は、原則として障害等級3級の目安となる
・仕事に復帰していても、障害厚生年金を受給できる可能性がある
・原因となった心疾患の「初診日」が重要
・障害厚生年金を請求するには、原則として初診日に厚生年金へ加入している必要がある
・装着日が障害認定日となる場合、初診日から1年6か月を待たずに請求できることがある
・装着から時間が経っていても、最大5年分を遡って受給できる可能性がある
・ICD、CRT、CRT-Dでは認定上の取扱いが異なる場合がある
○ペースメーカー・ICDは障害年金の対象になる?
日本年金機構の障害認定基準では、心臓ペースメーカーまたはICDを装着した場合、原則として障害等級3級の目安とされています。
障害年金の対象となる可能性がある機器には、主に以下があります。
・心臓ペースメーカー
・ICD(植込み型除細動器)
・CRT(心臓再同期療法機器)
・CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期療法機器)
ペースメーカー・ICDの障害等級
原則は障害厚生年金3級
心臓ペースメーカーまたはICDを装着した場合は、原則として障害等級3級の目安となります。ただし、3級があるのは障害厚生年金のみです。
そのため、3級を受給するには、原因となった心疾患で初めて医療機関を受診した日に、厚生年金へ加入していたかどうかが重要です。
確認するのは「ペースメーカーを装着した日に加入していた年金」ではなく、原則として「原因となった心疾患の初診日に加入していた年金」です。
2級になる可能性もある
ペースメーカーやICDを装着している方でも、心疾患の状態が重い場合は、2級以上に認定される可能性があります。
認定では、主に以下の内容を総合的に確認します。
・心不全や不整脈の状態
・心電図・心エコーなどの検査結果
・息切れ、動悸、胸痛、浮腫などの症状
・日常生活でどの程度の制限があるか
・仕事の内容や勤務上の配慮
・入退院や治療の経過
・装着している機器の種類
・ICDの作動状況
・今後も継続的な治療が必要か
特に、重症心不全でCRTやCRT-Dを装着している場合は、2級の目安となる場合があります。ただし、術後の経過や症状が安定した後に、等級が見直されることもあります。
初診日に国民年金だった場合はもらえない?
初診日に自営業、学生、扶養されている配偶者などで国民年金に加入していた場合は、障害基礎年金の対象となります。
障害基礎年金には3級という等級がないため、「ペースメーカーやICDを装着している」という条件だけでは、障害基礎年金を受給できません。
ただし、ペースメーカー・ICDの装着以外にも心臓の状態が重く、日常生活に著しい制限がある場合は、障害基礎年金2級以上に該当する可能性があります。
したがって、初診日に国民年金だったからといって、必ず対象外になるわけではありません。「国民年金だから無理」と判断せず、症状や生活状況も含めて確認しましょう。
働いていても障害年金を受給できる?
ペースメーカーやICDを装着した後、体調が安定し、仕事に復帰している方も多くいらっしゃいます。
そのため、「働いているから障害年金はもらえない」と考えてしまいがちです。
しかし、障害年金は、働いていることだけを理由に不支給となる制度ではありません。
特に、ペースメーカーやICDの装着による障害厚生年金3級は、働きながら受給できる可能性があります。
就労中でも確認される内容
申請時には、単に「働いている・働いていない」だけでなく、実際の勤務状況も確認されます。
収入があると支給停止になる?
通常の障害厚生年金では、働いて収入があることだけを理由に、直ちに支給停止になるわけではありません。
ただし、20歳前の傷病による障害基礎年金など、一部には所得制限がある制度もあります。
また、更新時には、症状、日常生活、就労状況などを踏まえて障害状態が改めて審査されます。
ペースメーカー・ICDの障害認定日はいつ?
障害年金では、「障害認定日」が重要です。
障害認定日とは、障害の程度を確認し、障害年金の受給権が発生するかを判断する基準日です。
原則として、障害認定日は初診日から1年6か月を経過した日です。
しかし、初診日から1年6か月以内にペースメーカーまたはICDを装着した場合は、装着した日が障害認定日となります。
例えば、次のようなケースです。
・初診日:2024年4月1日
・ペースメーカー装着日:2024年10月1日
・通常の障害認定日:2025年10月1日
・このケースの障害認定日:2024年10月1日(装着日)
通常の障害認定日は初診日から1年6か月経過した2025年10月1日ですが、初診日から1年6か月以内にペースメーカーを装着しているため、装着日である2024年10月1日が障害認定日となります。初診日から1年6か月を待たずに請求できるのです。
装着日が初診日から1年6か月を過ぎている場合
初診日から1年6か月を過ぎてペースメーカー・ICDを装着した場合、装着日が自動的に障害認定日になるわけではありません。
この場合は、原則どおり初診日から1年6か月を経過した時点の状態や、その後の症状悪化について確認する必要があります。
初診日、通常の障害認定日、装着日の関係によって請求方法が変わるため、慎重な確認が必要です。
装着から年数が経っていても遡及請求できる?
ペースメーカーやICDの装着時に障害年金の要件を満たしていたものの、制度を知らずに申請していなかった場合、障害認定日に遡って請求できる可能性があります。
これを「障害認定日請求」や「遡及請求」と呼びます。
遡って受給できるのは原則最大5年分
障害認定日に受給要件を満たしていると認められた場合、年金は障害認定日の翌月分から支給対象となります。
ただし、実際に遡って支給される年金は、時効により請求時点から原則として最大5年分です。
例えば、10年前にペースメーカーを装着していた場合、障害認定日まで遡って受給権が認められる可能性はありますが、実際に支払われる遡及分は原則5年分となります。
○初診日は装着日ではありません
ペースメーカー・ICDの申請で、特に注意が必要なのが初診日です。
初診日は、原則として、障害の原因となった心疾患について初めて医師の診療を受けた日です。
ペースメーカーを装着した病院を初めて受診した日や、手術日が初診日になるとは限りません。
例えば、以下のような受診が初診日となる可能性があります。
・健康診断で不整脈を指摘され、その後病院を受診した
・動悸やめまいで近くのクリニックを受診した
・失神して救急搬送された
・別の心疾患で以前から通院していた
・子どもの頃から先天性心疾患で受診していた
・高血圧や心不全で治療を受けていた
・転院を繰り返した後にペースメーカーを装着した
初診日が変わると、加入していた年金制度や保険料納付要件、受給できる年金の種類が変わるため注意が必要です。
「手術を受けたのは会社員のときだから障害厚生年金をもらえる」と思っていても、原因となった病気の初診日が学生時代や自営業時代だった場合は、障害基礎年金として判断されることもあります。
保険料納付要件にも注意
障害年金を受給するためには、初診日だけでなく、一定の保険料納付要件を満たす必要があります。
原則として、初診日の前日時点で、次のいずれかを満たす必要があります。
・初診日のある月の前々月までの年金加入期間のうち、保険料を納めた期間と免除期間を合わせて3分の2以上ある
・初診日が一定の期間内にあり、所定の年齢要件などを満たす場合に、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がない
よくある不支給・遡及が難しくなる原因
初診日の認識が間違っている
装着日や手術を受けた病院の受診日を初診日として申請したものの、それ以前に心疾患で受診していたことが判明するケースがあります。
初診日に国民年金だった
原則3級の状態でも、初診日が国民年金期間の場合は障害厚生年金3級を受給できません。
ただし、2級以上の状態に該当する可能性がないか、検査結果や日常生活状況を確認する必要があります。
働いていることだけを理由に諦めている
ペースメーカー・ICDを装着した方は、働いている場合でも障害厚生年金3級の対象となる可能性があります。
よくある質問
Q1.ペースメーカーを装着して働いています。障害年金を受給できますか?
働いていても受給できる可能性があります。ペースメーカーを装着した場合は原則3級の目安とされており、初診日に厚生年金へ加入していたかが重要です。
Q2.ICDとペースメーカーでは障害年金の扱いが違いますか?
ペースメーカーとICDは、いずれも原則3級の目安とされています。ただし、CRT・CRT-Dや心疾患の状態によっては、異なる等級が検討される場合があります。
Q3.退職後にペースメーカーを装着しました。対象になりますか?
装着時に退職していても、原因となった心疾患の初診日が厚生年金加入中であれば、障害厚生年金を請求できる可能性があります。
Q4.装着から5年以上経っています。今から申請できますか?
今からでも申請を検討できます。障害認定日に要件を満たしていた場合は遡及請求できる可能性がありますが、実際に支給される過去分は原則最大5年分です。
Q5.初診日の病院にカルテがありません。申請できませんか?
カルテがなくても、別の医療記録や紹介状、診察券、健康保険の記録などによって初診日を立証できる場合があります。すぐに諦めず、残っている資料を確認しましょう。
Q6.ペースメーカーを交換した日が障害認定日ですか?
通常は最初に装着した日を確認します。交換日が新たな障害認定日になるとは限りません。初回装着日や原因となった心疾患の初診日を確認する必要があります。
Q7.身体障害者手帳がなくても申請できますか?
障害者手帳と障害年金は別の制度です。障害者手帳を持っていなくても、障害年金の要件を満たせば申請できます。
まとめ|「働いているから対象外」と判断しないことが大切です
ペースメーカーやICDを装着した方は、現在働いていても障害厚生年金3級の対象となる可能性があります。
また、装着から時間が経っている場合でも、障害認定日当時の状態を証明できれば、過去に遡って請求できるケースがあります。
特に、初診日の判断や遡及請求は複雑です。一度誤った内容で提出すると、その後の修正が難しくなることもあります。
当事務所では、初診日の確認、医療機関への証明書依頼、診断書の内容確認、病歴・就労状況等申立書の作成、年金事務所への提出まで、一貫してサポートしています。
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